中国の広東省にある2つの工場を視察した後、私は中国の工場が持つ「何でも自分たちでやる」という習慣とプライドを実感しました。感服すると同時に、かつて欧米の工場がずっと掲げていた「私たちの得意分野に専念する」という企業信条を思い出しました。これは私に考えさせました。本当に何でも自分たちでやるべきなのだろうか?例えば、MESシステムの導入は自社開発で可能だろうか?
企業がMES(Manufacturing Execution System、製造実行システム)を計画する際、成熟したパッケージMESを購入するか、それとも独自の専用システムを自社開発するかという選択肢に直面することがよくあります。多くの人は、自社開発システムの方が自社のニーズに完全に合致すると考えがちですが、経済的効果、組織管理、そして長期的な運用保守の観点から見ると、大多数の企業にとって、実績のあるパッケージMESを導入する方がはるかに堅実な選択肢となります。
一、 業界全体で数十年にわたり蓄積されたベストプラクティス(Best Practices)の購入
第一に、企業が購入するのは単なるソフトウェアではなく、業界全体が数十年かけて蓄積してきた経験そのものです。成熟したMESベンダーは膨大な数の顧客にサービスを提供しており、その製品には生産追跡、Routing、Recipe、品質管理、設備管理、サンプリング検査、複数工場間のデータ統合といったコア機能がすでに網羅されています。これらの機能の背景にあるのは、単なるソースコードではなく、数多くの工場が長期にわたる検証を経て形成したベストプラクティスです。
二、 コアアーキテクチャの潜在的な複雑さと「臓器移植」のリスク
多くの企業が自社開発MESを評価する際、システムの複雑さを過小評価しがちです。例えば、Routingは一見すると単なるプロセスの設定のように見えますが、実際には手直し(Rework)、スキップ、代替経路、並行プロセス、品質管理、およびトレーサビリティの要件が絡み合っています。さらに重要なのは、初期のアーキテクチャ設計が不十分だった場合、後からの変更は単にブロックを積み上げるような簡単なものではなく、「臓器移植」に匹敵するリスクを伴うという点です。MESの製造オーダー、WIP、設備、品質、トレーサビリティデータは互いに高度に関連しているため、コアデータモデルを変更すると、数百のプログラムや長年の履歴データに影響が及び、修正コストは当初の想像をはるかに超えることになります。
三、 コア管理ニーズの同質性と「独りよがり」の限界
組織管理の観点から、多くの企業は「自社のプロセスは非常に特殊であるため、完全なカスタムシステムが必要だ」と主張します。しかし実務上、ほとんどの工場のコア管理ニーズは、製造オーダー管理、WIP追跡、Check In/Check Out、品質判定、Hold/Release、および製品履歴トレーサビリティなど、ほぼすべての製造業が共通して直面する課題であり、高度に類似しています。
さらに、自社開発には見落とされがちな「独りよがり(閉鎖的な開発)」という問題もあります。パッケージMESベンダーは毎年多くの企業や産業アプリケーションに触れ、新しい管理思考やベストプラクティスを常に吸収し、製品を継続的に進化させています。一方で、社内の開発チームは自社のプロセスしか見ないため、他社との比較や学習の機会を欠き、やがて現状が最善であると誤解し、さらには業界標準から逸脱してしまい、将来の拡張や統合を困難にするリスクがあります。
四、 キーパーソンの離職と人材損失リスク
もう一つの現実的な問題は、人材リスクです。多くの自社開発システムは、システムの構造や設計思想が数人のコア開発者の頭の中に収まっているため、開発初期は順調に稼働します。しかし、数年後にこれらのキーパーソンが退職、定年退職、または異動した際、システムを本当に理解している人が社内に誰も残っていないことに気づくケースが多々あります。新入社員がソースコードを手に入れても、当時の設計ロジックを理解できるとは限りません。最終的に、システムは稼働し続けているものの、誰もコア機能を変更できなくなり、毎回の改修がまるで爆弾処理のように大きなリスクを伴うようになります。
対照的に、成熟したパッケージMESは通常、完全なドキュメント、トレーニングプログラム、バージョン管理制度、およびグローバルな技術サポート体制を備えています。システムの知識は個々の従業員に依存するのではなく、製品のエコシステム全体に保存されるため、特定の個人への依存度を効果的に下げることができます。
五、 IT戦略のバランス:「70%の標準機能 + 30%の差別化開発」
もちろん、これは外資企業がカスタマイズを完全に諦めるべきだという意味ではありません。スマートなIT戦略は通常、「70%の標準機能 + 30%の差別化開発」に傾きます。Routing、Traceability、WIP、Quality、Equipmentなどの業界共通のコア能力は成熟したプラットフォーム上に構築し、企業の真の競争優位性となる特殊なプロセスに対してのみ、追加の拡張開発を行います。
総括すると、MESの自社開発は不可能ではありませんが、長期にわたる多額の資金、人材、管理コストの投入が必要となり、同時に設計、知識継承、保守のリスクを背負うことになります。多くの企業にとって、実績のあるパッケージMESを基盤プラットフォームとして選択し、適度なカスタマイズで特殊なニーズを満たすことが、コスト、リスク、および将来の拡張性のバランスを取る最善の戦略です。企業が本当に注力すべきなのは、自社の製品と製造プロセスの競争力を磨くことであり、世界中の企業が数十年かけて検証してきたMESシステムを「再発明」することではないからです。
今回はMESシステムを例に挙げましたが、私が本当に伝えたいのは他の部門や機能についてです。非化学領域におけるHR(人事)や財務といったコア業務のアウトソーシング(外注)は行き過ぎかもしれませんが、もし清掃、警備、設備の保守といった非コアの支援業務まで全て自社で行おうとするならば、それは社会学でいう「社会的分業(Division of Labor)」の目的について語り合う良い機会ではないかと思います。